「どうしたの、お腹でも空いた? 何か作ろうか。何食べたい?」


無理に、明るい声を出しているみたいだった。

気を遣っているようで、なおかつ、わたしの様子を窺っているようで。


「オムレツ作ろうか?」

「いらない……」

「……じゃあ、紅茶淹れる? すぐにできるよ」

「いらない……なにも、ない」


お腹が空いてるわけじゃない。でも、何も、ないわけじゃなかった。

本当は、お母さんに訊きたいことがあったんだ。そのために下りてきた。

どこかにしまってあるはずの、1冊のアルバムの場所。

でも……。


「なにもないよ。もう、寝るね」

「星」

「おやすみ」


お母さんの顔は見ずに、今下りて来たばかりの階段を駆け足でのぼった。お母さんはもう一度「星」とわたしの名前を呼んだけど、追いかけて来ることはなかった。


部屋に戻って、ベッドの中でぎゅっと目を瞑ってうずくまった。

真っ暗闇の中、必死で、震えるものを抱き締めた。


「……っ」


──お父さん。お母さん。


たったひとつの家族なのに、なんで、ひとつになれないんだろう。

いつから、こんな風に、バラバラになっちゃったんだろう。

……どうしたら、わたしたち、家族に戻れるんだろう。


「……ハナ」


狭い狭い空間の中で、ぽつりと名前を呟いた。

ハナに、無性に会いたかった。


笑ってくれる人。見えない世界を見せてくれる人。

ほんのわずかな間だけでも、わたしを、ここから、出してくれる人。



「ハナ」



今すごく、きみに会いたい。