ハナとお兄さんがきょとんした顔を向けたところで、しまったと思った。

慌てて目を伏せて、スカートを掴んで、自然と、早口になる。


「あの……わたし本当にひとりで帰れますから、すいません」

「セイちゃん」

「大丈夫だよハナ。じゃあ、またね」


手を振って、ふたりが止める前にそこを離れた。

どんどん進んで、まるで逃げるみたいにしばらく小走りで。肺が苦しくなった頃に、ようやく速度を遅くした。

慣れた道、歩道の端っこをゆっくりと歩いて行く。

深く呼吸をしながら、ドッドッドッと鳴り響く胸の辺りを右手で押さえた。

靴は履き慣れたローファーだったけど、珍しく走ったせいで随分足が痛い。

見上げると、いくつか星が光り出していた。空はこれからも暗くなるけれど、この辺りからじゃ、この後も、これ以上の星は見えなかった。


「…………」


変に、思われただろうな。

あんな逃げ方、なんだかやましいことでもあるみたいだ。

馬鹿みたい。おかしな意地と、勝手な思い。


「……はあ」


たぶん、わたしは、ハナにわたしの“本当”の日常に入り込んでほしくないんだ。

綺麗じゃない、汚い、わたしの日常。

ハナはそれとはまったく違うものだから。もっと別のものだから。

だからこそ、わたしの中に、入ってきてほしくはないんだ。

きみはいつでもきみの世界に居てもらいたい。

わたしとは違う場所で。

わたしが、ときどき、勘違いした世界を見られる場所。

それがハナの居るところであってほしい。


そう、きみとわたしは、違う場所に居る。