「……優しくなんか、ない」

「俺はそうは思わないよ。だって俺のために、そんな顔をしてくれるんでしょ」


もう一度、わたしのほうを向いて、ハナが笑う。

なんでかな。水飛沫だって星だってないのに、なんでかまわりがキラキラして見えるんだ。


わたしには無いもの。

わたしの世界には無いもの。

でもきみには見えるもの。


きみの側でだけ、わたしにも見えるもの。


「俺はね」


小さなハナの声。でも、どこまでも響く。


「俺には確かに、過去も未来もないよ。今しかないんだ。だからその分、ここにある“今”を、めいっぱい存分に味わいたいと思うんだよ。できるだけ鮮やかにね、少しだって零さないように、抱きしめられるように」


思うよ。ハナの言葉っていつだって、率直で、揺るぎなくて、前も後ろも向いていなくて。なんでそんなに心真っ直ぐでいられるんだろうって。

ハナはいつも、今自分が立っている足元と、高い空を、見つめるだけ。

それだけでハナには、きっと十分だから。

それだけ見えていれば。

それだけを見られれば。


そっか、て、思う。


「……わたしもおんなじかな」

「ん?」

「おんなじだよね。過去は、憶えてたって戻れはしないし、先のことなんかとてもじゃないけど考えられない。わたしにも今しかないよ。誰だってそうでしょ。今しかない」


今しか、ないのに。