「ふ、」


漏れて聞こえたのは、かすかな吐息みたいな小さな声。

慌てて振り向いたのは泣いたのかと思ったからだ。でも違った。ハナの目には涙なんてなくて、それどころか浮かべているのはふわっとした柔らかな笑顔。


「……なに」


人がせっかくきみのことでちょっと凹みかけていたのに。ってイラつくわたしの気持ちなんてちっとも知りはしないんだ。

ハナは声こそ上げないけれど、それでも緩んだ顔のまま、そっと、目を細める。


「そんな顔しないで、セイちゃん」


そんな顔ってどんな顔だ。

言おうとして、でも、やめた。


だって、たぶん。

また、あの写真の中のわたしとおんなじ顔をしていたに違いないんだ。

全然綺麗じゃない、いろんなこと、考え過ぎちゃっている顔。


「言ったでしょう」


ハナがゆっくりと瞬きをして、わたしを見た。


「俺は今ね、楽しいんだよ。辛くもないし悲しくもない。きみにも会えた。それで十分」


ね、とハナは首を傾げて、またひとつ、大きく笑う。

本当に、透明に、どんな汚れたものだってこの世界には無いみたいに、綺麗に。


「ハナ……」


わたしはそれから目を離せない。

また、ひどく、涙が出そうになるのに。


「優しいね、セイちゃんは」


ハナが、大きく息を吸い込んで、空に顔を向けた。

太陽の眩しさで、輪郭が白く光っている。