「セイちゃんは高校生?」

「……そうだけど」

「どこの学校?」

「……市立南高の1年」

「南高かあ」


ぽつりと呟きながら、何かを探すようにノートを捲っていくハナの指先。それがふと止まったのは、ノートの最初のほうのページだ。

個人的なものだからあんまり覗かないようにしてるけど、こっそりチラ見した限りでは、そこには日記じゃなく、ハナ自身に関するいろんなことが書いてあるみたいだった。

たとえばお家のこととか、学校のこととか、知っておかなきゃいけないそういうの。


「あ、残念。俺が通ってるところと違う」

「制服見たことないけど、ハナも高校生だよね」

「そうだよ」


そう言ってハナが教えてくれたのは、この辺りじゃ有名な、お金持ちと優等生だけが通える私立の学校の名前。

正直びっくりした。だって本当に知り合いであの学校に通ってる人なんていないんだもん。

もちろんわたしじゃ到底通えないその学校の、2年生に、ハナはいるらしい。


「まあ、これを見る限りじゃほとんどサボってるみたいだけどね」


こつこつと、ハナの指がノートをつつく。


「ガッコ、行っても授業覚えられないし、行く意味ないからね。親が高校は普通のとこ出させたいって、お金と同情で籍置かせてもらってる感じだから」

「そう、なんだ」

「じゃなきゃ進級なんてできてないでしょ。普通に通ってたら俺、赤点ばっかで今頃セイちゃんと同学年だよ」


笑うハナに、わたしはうまく笑い返せていただろうか。

なんか、変だな。こうやって話しててもハナはなんにも他の人とは変わりないのに、やっぱり、おんなじだって言い切るにはどうしたって難しいところがある。


学校に行っても意味がない、とか。ときどき誰かが気だるそうに呟くけど、そういうのとは違うんだろう。

本当に意味がないんだ。ハナにとって。

わたしたちにはあたりまえの、知識とか、経験とか、積み重ねて未来に持ってくの。そういうの、全部、ハナにはない。