「あれ?」
素っ頓狂な声。
見れば、さっきと同じ、また、思いもよらなかった、みたいな驚いた顔をしていて。
でもすぐに「あー」と何やら意味深なうめきを漏らしながら、苦く笑って髪を掻く。
「そうか。セイちゃんにはまだ、言ってなかったんだ」
忘れていた、というよりは、そのことに初めて気付いたみたいだった。
「なにを」と訊くと、ハナは小さく息を吐いて、ゆるりと表情を緩ませる。
「俺の記憶、1日しかもたないんだ」
……は、と声には出せないまま、口だけを開けて固まった。
あまりにも唐突で、突拍子もなくて、予想だにしないことだったから。
理解できないわけじゃなくて、理解していたからこそ。
頭が、ついて、いかなくて。
「…………」
どういう、こと。
何を、今、ハナは言った?
記憶が、1日しかもたない?
「それ、って……」
ハナの言葉を、頭の中で繰り返して、そうして、なおさら、よくわからなくなる。
「それって、どういう……」
「ん? そのまんまだよ。1日以上前に起きたこと、俺の頭の中から一切消えちゃうんだよ」
なんでもないことみたいに、ハナは言っていた。
今日のお昼はパンなんだよ。そんな軽いことを伝えるような、口調で、表情で。
きっと、とんでもなく大事なことを。