シャッターを押すのを少しためらったのは、このままずっと、この世界を見ていたいと思ったからだ。
きみの居る景色。
「ハナ、笑って」
「笑ってるよ」
「もっと。ほら、1たす1は?」
ハナが笑う。シャッターを押す。
たった一瞬の世界が、ずっと、止まったままで刻まれる。
暗闇を照らす星月夜。
その中で、世界で一番綺麗に笑う、きみ。
そっとカメラを下ろした。
ファインダー越しにじゃなく、きみを直接この目に映して、今度はわたしの記憶の中に、きみの姿を焼き付ける。
「……ハナ」
その笑顔を、いつまでわたしに向けてくれるかな。
きみはいつまでそうやって、心から、笑っていてくれるだろうか。
いつまででも笑っていてほしいよ。
ときには涙だって見せてもいいから。
「ねえハナ」
きみが心の声を、そのまま表に出せるとき。
わたしはいつでもきみの側に居る。
だからもう。
「忘れてもいいよ、ハナ」
だからもう、ひとりで、震えたりしないで。