「ほんとだ。俺のよりもちょっと重いね。大きさもこっちのほうが大きいし」
「うん。だからね、持ってると腕疲れちゃうんだよ。三脚買おうかな」
「あは、三脚持ち歩くほうが疲れちゃうよ」
返ってきたカメラをカバンにしまう。
パンパンのファスナーをどうにか閉めて、それから、ハナに訊ねる。
「今日はどうする?」
ハナは「んー」と唸ったあと、ごろんとその場に寝ころんだ。
芝生の上で眩しそうに目を閉じるのを、わたしは横から見下ろしていた。
どこに行こうって今日は言うのかな。わたしの知らない場所かな、ハナの知らない場所かな。
それともふたりとも知らない新しいところかな。
まだ知らない場所、どれだけ見つけられるんだろうか。
「そうだね、今日は」
だけど返ってきた答えは思いがけず、こんなこと。
「今日は、ここでのんびりしてたい気分」
「ここで?」
「うん、たまには」
珍しいなあと思った。ハナはわたしよりもずっと、歩き回るのが好きなタイプだ。
でもきみがそう言うのなら。
「わかった。じゃあわたしも寝よっと。おやすみ」
わたしが何かを望むとき、きみは必ずその通りにしてくれるので。
その代わりにいつもはわたしが、きみの気まぐれに付き合うのだ。
「ちょっとセイちゃん。俺、別に寝てはいないよ」
「わたしは寝ちゃいそうだから、寝ないようになんか話して」
「んー、じゃあ、うちのコロの話をしようか」
ハナの話は、愛犬コロちゃんがハナのお家に来たときの話。
コロちゃんはご近所さんの家から貰ってきた子で、一緒に産まれた6匹の中で一番小さな子犬だったそうだ。
そのせいで他の兄弟に負けてお母さんのおっぱいもなかなか吸えなくて、余計に成長の遅い子だったらしい。
だけど初めて会いに行ったとき、ハナは一目でその子を気に入った。たったひとりで頑張っていた小さな子。
「この子を、自分の家族にしたいと思ったんだよ」
それはもう、3回くらい聞いたことのある話。
でもわたしは今回も、それを静かに、何ひとつ聞き逃さないよう、大切に聞いた。
何気ない日常だ。特に面白味もない、ありきたりなもの。
でもそれは、紛れもなく、もう増えないだろうハナの、大事な思い出のひとつだったから。