──カシャ


乾いた音が、静かに響いた。

ファインダー越しに、ハナと、目が合う。


「セイちゃん?」


カメラを下ろすと、ハナは驚いた顔をした。


「こんにちは、ハナ」

「こんにちは……って、え? 今、もしかして写真撮った?」

「うん、もしかしなくても撮った。ハナのこと撮った」

「ちょっと、嘘。やだ俺、今変な顔してなかった?」

「してた。ちゃんと撮っておいたから、現像したら見せてあげるね。絶対綺麗に撮れてるはず」

「やめてよー、うわあ、すごく恥ずかしいんだけど」

「これでわたしの気持ちも少しは理解したでしょ」

「なんのこと?」

「変な顔を撮られる恥ずかしさ」

「セイちゃんが変な顔をしてたときなんてないよ」

「いっぱいあるっての。ハナのアルバムはわたしの恥ずかし記録ばっかりだよ」


カメラを抱えたままでずんずんと丘を登っていく。

隣に立った頃にはもう、ハナはいつもの柔らかな表情に戻っていて、よかった、と安心しながら、横にぺたんと座った。

草の匂いがする。


「いいでしょ、わたしのカメラ」

「びっくりしたよ。でも隠し撮りはよくないな」

「その言葉そっくりそのまんまハナに返すよ。思い知れ、わたしの常日頃の恥を」


と言ってもハナは自分は隠し撮りなんてしないと思っているから、わたしの言葉なんて聞く耳持たずだ。

なんだか最強のとぼけ方だなあと思う。


「かっこいいね、そのカメラ。どうしたの?」

「お父さんに貰ったんだ。少し古いし重いけどね、性能はいいみたい」

「へえ……ちょっと借りていい?」


ハナはカメラを手に取ると、空に向けて、カシャリとシャッターを切った。

わたしのカメラに刻まれる、ハナの見る世界。