今日は、月に一度の検査の日だと聞いていた。
病院が終わるのが何時くらいかは、これまでの経験で知っている。
だから、それに合わせてわたしも少し、遅く家を出るつもりではいたけど、思わぬ労働で予定よりもさらに出発時間が遅れてしまった。
最近は負けることが多いから、今日は先に着いてやろうと思っているのに。
通い慣れた道を、足早に進んでいく。
駅の側のいつもの公園。相変わらず仕事をしていない噴水の前を通り過ぎて、ちょこっと広場の奥へ進めば、いつだってひと気のない、芝生の生えそろった丘の場所へ着く。
ちょっと期待はしたけれど、そこにはやっぱりもうきみが居る。
ああ、また負けちゃった。たまにはきみを待っていたいのになあ。
少し歩く速度を緩めてゆるい丘の下へ行く。
そこで、顔を上げて、きみの名前を。
──ハナ。
「…………」
呼ぼうとして、でも、呼べなかったのは。
ハナの表情が、とても悲しそうな。今にも泣きそうで、でも、絶対に泣かない顔をしていたせい。
──あれは。
最近よく見る……わたしが、ハナに出会った頃にしていた顔と、おんなじ顔だ。
何かを必死に考えているときの顔。何を考えているのかは、わからないけれど。
思い返せば何度か心当たりがあるんだ。ふと気付くとその表情を見せていて、でも、すぐにいつもの顔に戻る。
わたしには気付かせたくないみたいだった。それもわたしと同じだ。わたしも、誰にも何も知られたくなかった。
空を見上げているハナは、わたしに気付いていないみたいだった。
どうしたらいいのかな。でも、どうしたらいいのかわからない。
だってわたしには、なんでハナがこんな顔をするのかがわからないから。
何を考えているのか。何をしたら、笑ってくれるのか。
「…………」
掛ける言葉は見つけられなかった。
その代わりに、急いでカバンを開いて、持ってきたものを取り出した。
重たいそれを顔の前に掲げる。よく理解できなかった本の内容を、手探りで、試してみる。