気付けば随分日が落ちてきていた。夕暮れ時と言える空。

お母さんはまだ名残惜しそうだったけれど、あまり遅くなっても行けないから今日はここで終わりにした。


「じゃあセイ、ちゃんとハナくんを送っていくのよ」

「うん」


帰り道がわからないハナを、噴水の公園までわたしが送っていく。

ハナは「ひとりでも大丈夫だよ」と言っていたけれど、ハナと違ってわたしはそういう遠慮はしないのだ。


「ハナくん、セイのこと、よろしくね」


お母さんに、ハナは少しだけ間を置いてから「はい」と返事をした。

お母さんは嬉しそうに笑って、家を出るわたしたちを手を振って見送った。


門を抜けて少し歩いたところで「バイクがあった」とふいにハナが言う。


「ああ、うん。あれがわたしの原付」

「ゲンツキ」

「うん。高校出たらね、二輪の免許取ってもっと大きいバイク買うんだ。ふたり乗りも楽にできちゃうやつ」

「大きいのが欲しいの?」

「そうだよ。ハナと一緒に乗るの」


もっとわたしが大人になったら。

ハナをわたしのバイクの後ろに乗せて、どこまでも行きたい場所へ行くんだ。

思い出のあの丘とか、他にももっとたくさん。わたしもハナも知らないいろんな場所へ。


「それは……俺とした約束?」

「違うよ。ただのわたしの願望」

「そっか……」


そのときなんとなく、隣を歩くハナを見上げた。


どきっとしたのは、見惚れたわけじゃなく。

夕焼けでオレンジに染まる横顔。それがとても綺麗で、いつまでも見ていたくて。

だけど、それよりも、不安になったせいだった。


「…………」


ハナの表情に見覚えがある気がした。何かに似ていた。

そう、いつかハナが撮った、わたしの写真と同じ顔。

何かを必死で考えているときの表情だ。誰にも言えない、自分にとっての大事なこと。