ね、と首を傾げて言われれば、どんなことも言い返せない。
唇を噛みながら、赤くなる顔を隠して俯くしかなくて、でも。
「ハナ……」
「ん?」
「お母さんに……会って欲しいんだ」
「うん」
「引っ越すとなかなか機会ないと思うし。お母さんも……ハナも、わたしの大好きな人だから、ふたりにちゃんと、お互いのこと紹介しておきたくて……」
「うん、わかった」
見上げた。ハナの顔を見て、そうか、と気付いた。
ハナのことをとても大切に思うから、自分のことを知られるのが怖いんだ。だけどそれよりも、知って欲しいと思うんだ。
覚悟を決めなきゃ。逃げてばかりじゃなくて。たまには。
「よし! 腹くくった」
「あは、セイちゃん男前だなあ」
「それ褒め言葉じゃないよ」
玄関のドアを開ける。ほのかに家の匂いがする。
「ただいま」と中に向かって声を掛けると、お母さんの返事が返ってきた。
「あら、星? おかえり、今日は早かったのね」
リビングからひょこっと顔を出したお母さんは、こっちを見て、少し目を見開いて、それから「あら」と声を上げた。
「ハナくんね。はじめまして」
ハナを連れてくることはお母さんには言っていない。
だけどすぐに気付いたみたいだった。お母さんはゆっくりと、顔を綻ばせた。