だからそれをきみに見てもらいたいんだ。
わたしの持っている宝物。きみにも、見せてあげたいんだよ。
町並みは、小さな頃から知ってるそれに変わってきた。
何度も何度も、数えきれないくらいに通った古い住宅街の道。
今はまだ灯りの点いていない街灯を順番に通り過ぎて、今朝出て来たばかりの場所へ、帰る。
「……ここ?」
「うん。ここ」
「かわいいお家だね」
「そう、かな」
2階建ての、そう大きくない一軒家。わたしが生まれる少し前に、分譲で売られていたのを購入したらしい。
門の横には『倉沢』の表札。家を買って以来変えていないから、随分とくたびれてしまっている。
「なんか緊張するなあ。お家の人は居るの?」
「うん……お母さん、が」
「そうなんだ。きちんとごあいさつしなきゃね」
緊張する、なんて言いながらもハナはちっともそんな感じを見せない。
いつもと同じふわふわとした、柔らかな雰囲気そのままで。
逆に、わたしは心臓が今にも口から飛び出しそうなくらいだった。
自分から誘ってここまで来ておきながら、尋常じゃなく緊張している。
「……じ、じゃあ、入り、ましょうか……」
彼氏とか男友達を家に連れてきたことなんて、これまでだって何度もあるのになんでなんだろう。
今まで一度だってこんな風に感じたことはなかった。何が違うんだろう。何が。
「あは、ちょっと、セイちゃん落ち着いて」
ぽん、とハナの手のひらが頭の上に乗る。リズムよく何度か跳ねた後、わしわしと指先だけで撫でられた。
「なんでセイちゃんがそんなにガチガチになってるわけ?」
「だってそれは……てか、なんでハナはそんなに気楽そうなのさ」
「言ったでしょ。俺だって緊張してるんだよ。当然でしょ、女の子の家に呼ばれて、お母さんにも会うかもしれなくて。ドキドキしてんの、俺だって」
「でも、そんな風に見えない」
「だってそれ以上に楽しみだから。セイちゃんのことを知れるのが」