アルバムの写真は全部、その丘で撮った写真だった。
お父さんが初心者なりの知識と技術を駆使して撮った星空の写真(ちょっと失敗作もあった)や、広いお花畑の写真。
わたしがひとりで写っているものもあったし、家族みんなで撮っているものもあった。
写真を眺めている中で、どんどん記憶が鮮明に思い出されていった。
相変わらずお花畑のことは憶えていないけど、そのときの風の冷たさとか、手の温かさとか、闇の恐さとか、初めて見たあまりに広い夜空の偉大さとか。
そういったことが、あのときに感じたそのままに、今のわたしに浮かんでくるんだ。
心の深くにしまっていた記憶。
忘れたことすら忘れていたもの。
だけどなくなっていたわけじゃない、消さずに取っていた、大切な思い出。
「とても、素敵なところだね」
最後の写真を見終わって、裏表紙をぱたんと閉じる。
裏表紙の下のほうには可愛いシールが貼ってあって、10年前の日付と、あの丘の地名がそこに書かれていた。
「行ってみたいなあ、俺も」
お母さんが書いた古い字を、指先で撫でながらハナがぽつりと零した。
「じゃあ行く?」
「え?」
「うん、行こう。ふたりでだって行けない距離じゃないし。わたしがハナをその丘に連れてく。よし、決まり」
「えっと……それは約束?」
「違うよ。わたしの願望」
そうだ、いつもハナがわたしを連れ回して知らないところをたくさん見せてくれるから。
たまにはわたしもハナをどこかへ連れて行こう。
すぐには無理かもしれないけれど、大した準備だって要らないだろう。
いつにしようか、いつならいいかな。
どうやって行くかも考えなくちゃ。なるべくなら、ハナが楽しめる方法がいい。