実はまだわたしも、そのアルバムを見ていなかった。
ハナと一緒に見ようと思ったから、お母さんに渡されてそのままカバンに突っ込んできたのだ。
「小さい頃にね、お父さんとお母さんと一緒に、ここから車で1時間くらいのところにある丘陵地に遊びに行ったんだ。自然が売りの、それ以外本当に何にもないところでね。でも街の中で育ってるわたしには、ものすごく新鮮な場所だった」
確か、海も側にあった。
記憶の中では微かに、潮の香りも漂っていた。
夜だったから見えなかったけど、昼間ならその丘から、海も見えるとお父さんが言っていた。
昼なら星は出ていないから、もしも行った時間が違ったら、わたしは海に夢中になっていただろうか。
「そういえばあれって海のことだったのかなあ?」
「ん、なにが?」
「その場所ね、星がものすごくよく見えて、わたしもそのことばっかり憶えてたんだけど。お母さんがあの場所には、星だけを見に行ったわけじゃないって言ってたから」
「へえ、そうなんだ」
「あ、でもこの写真に写ってるって言ってたから、海じゃないのかなあ。見えなかったし」
「見てみようよ。俺も気になる」
「うん、そうだね」
ふたりの真ん中にくるように、それぞれの脚の上にアルバムを置いた。
表紙をめくった1ページ目。
同時に、感嘆の声を上げた。
「……わあ」
最初の写真は一面に、真っ白な星が散りばめられた夜空の写真だった。
小さな四角に切り取った、広大な夜空のたった一部。
だけど偉大な、空に透ける、遥かな宇宙。
「……すごいね」
「うん、すごい」
真っ暗だけど、真っ黒じゃない。
そんな夜空にいくつも開いた、いびつな大きさの光の穴。
この場所から見る夜空とは全然違った。
同じはずなのに、でも、違う。
とても暗いのに、とても明るくて、吸い込まれそうな、闇と光の夢の世界。