お母さんも、あの場所のことはよく憶えていた。

そのときの写真を納めたアルバムの場所も、ちゃんと忘れずいてくれた。


「懐かしいね。星が憶えてるとは思わなかったけど」


押し入れにしまっていた段ボール箱の中には、いくつものアルバムが詰められていた。

ひっくり返されたその中から、お母さんが拾い上げた1冊のアルバム。

表紙は赤のチェック柄。1ページに1枚だけを挟むサイズだ。


「そういえば星は、空ばっかり見てたけど」


出て来たアルバムをわたしに手渡しながらお母さんはそう言った。


「本当はあの場所には、夜空だけを見に行ったわけじゃないのよ。そのことはもう、憶えてないかなあ」


くすくすと笑うお母さんに、わたしは首を傾げていた。

だって思い出せるのは綺麗な星空ばかりで、それ以外のことなんてまったく憶えていないから。

他に何かあったっけと、がんばって思い出そうとするけれど、やっぱりわたしには頭の上のきらきらの景色しか浮かんではこない。


「そのアルバム見たらわかるよ」


お母さんはそう言って教えてはくれないし。

わたしはアルバムを抱えて、うん、と曖昧に頷くしかなかった。


「それにしても突然そんなの見たいだなんて、なんかあるの?」

「……ん、別に、ちょっと思い出して。見てみたいなーって」

「そう……お母さんは、思い出を見せたい相手でもいるのかなあって思ったんだけど」

「……そういうわけじゃ、ないよ」

「ふうん、そう。まあ、満足いくようにやりなさいね」


意味深に言って、お母さんは散らかった段ボールのまわりを片付け始めるから。

母親ってもんは恐ろしいなあと、わたしはそっとその場を離れた。


だけどそのうち、紹介はしなきゃ。

わたしの大切な人へ。わたしの大切な人を。

今はまだ恥ずかしいけど、そのうちに。