「ごめんね」


と、お母さんが言ったのは、どこまで話したところでだろう。

頭で考えながら話せていなかったから、その言葉を聞いたときには、もう自分が今の今まで喋っていたことが何かを忘れてしまっていた。

そんなことなんて、どうでもよかった。


「ごめんね」


もう一度、お母さんが言う。

わたしは言葉を途切らせたまま、何も言えずに、お母さんを見ていた。


「お母さんたち、あんまりに自分勝手過ぎたね。星がそんな風にいろいろ考えてたこと、たぶんどこかで気付いていたのに、なんにも思わなかった」


お父さんはじっと黙ったままだ。唇をぎゅっと噛み締めて、やっと渇いてきたはずの目が、また少し潤みはじめている。


「でも、星」

「うん」

「お互い様なんだからね」


首を傾げた。

お母さんがくしゃりと笑う。泣きそうにも見える、笑顔。


「星だって、お父さんとお母さんの気持ち、全然わかってなかったんだから」


へたくそに持ち上げられていたお母さんの唇。

だけどそれはどんどん歪んで、とうとう、泣きそうに見えていた顔が本当に泣いた。


お母さんの泣いた顔を、見たのはこれが初めてだった。

驚きはしなかった。

涙、透明で綺麗だなあ、なんて、そんなとんちんかんなことを考えた。