「警察の人?」
なぜだか分からないが、そう口が言っていた。

「は?アホか、お前。俺はなぁ・・・」
言いかける男に私は近くにあった文庫本を思いっきり投げつけた。

 いや、だんじて言うが『アホ』というセリフにキレたわけではない。

 警察でないなら泥棒だ、という判断を脳がしたからにすぎない。

 文庫本は鈍い音を立てて、男の頭にぶつかった。
「痛ぇ!」
男にダメージを食らわせるのに成功したらしい。間髪置かず、手当たり次第つかめた物を投げつけると、相手がひるんだすきにドアから廊下に飛び出た。

「お母さん!お母さん~!」

「ちょ、待てよ!」

 今どきキムタクでも言わないことを言いながら男の声が追いかけてくる。

 短い廊下を走ると、階段を駆け降りる。何年も遅刻ギリギリでダッシュしているから、私の方が断然有利なはずだ。

「お母さん!泥棒!泥棒!」