見慣れた病院の正面玄関から中に入ると、そのままエレベーターの方に向かう。

「待て」
クロが歩く背中に短くストップをかけた。

「犬じゃないんですけど?」

「似たようなもんだ。それより、本当にここで合っているのか?」

「もちろん。何度もお見舞い来たもん」

「ふーん・・・ま、いいか。それより、案内人としてもう一度ルールを伝えておく」

 ルールってゲームみたいだな。でもこのゲームのゴールは、勝っても負けても同じくらい苦しいのかもな・・・。

「何よ、ルールって」

「うむ」
クロはそう言うと、スーツの内ポケットから封筒を取り出した。その中から白い便箋を取り出すと、わざとらしく咳払いをした。
「えー、これよりルールを説明する」

「はいはい」
腕を組んで顔を斜めに向けてクロを眺める。

「その1、案内人は被案内人が未練を持つ相手の名前のみを教えられる」

「おばあちゃんってことも知ってたけどね」