「ふふ、そうなのかな」
私も微笑んだ。久しぶりに笑った気がした。

「でもな」
窓の外に目をやってクロが言う。
「未練を探し当てるのは難しいぞ」

「えー、そうでもないっしょ。自分自身のことだしさ、分かりそうなもんじゃない?」

 クロはわざとらしくため息をつくと、
「だからお前はアホだ、って言うんだ。俺たちの世界で言う未練は、命を落とす最後の瞬間に頭に浮かんだことを言うんだ。瞬間的に思うことなんて、自分自身でも分からないだろう。それがお前をこの世に縛っているんだ。実際、今まで俺が案内したやつの中には『たこ焼き食べたい』なんて未練のやつもいたぞ」
と言った。

「え・・・」

「あ~、『レンタルビデオ返してなかった』ってのもいたな」

「ちょっ・・・そんなの分かるわけないよ!」