「俺からしてみれば、森野蛍ってほうがよっぽどおもしろい名前だったんだけどな」

「ちょっと、それひどい」
壁から身体を起こして抗議する。

「だってそうだろ。マンガみたいじゃん」

「あんたねぇ」

 右手を挙げて殴るまねをしようとしたとき、私の身体は蓮に包まれた。

 蓮が私を強く抱きしめたのだ。

 息が止まる。

 世界が止まる。

 蝉の声も聞こえない。

「蓮?」

「・・・いやだなぁ」

 くぐもった声がすぐ近くで耳に届いた。