麻紀子は嗚咽をこぼしながら、首を何度も横に振る。
「私が、声をかけた・・・からっ、私が・・・私がっ」

 祝日でにぎわう街。

 通りの反対側にいた先生を見て、うれしくなって飛び出してしまった涼太。

 トラックのブレーキ音。

 ・・・悲しい事故だったのだろう。


「涼太はきっとトラックにはねられる瞬間まで、先生に会えたうれしさでいっぱいだったはず。先生がそんなに泣いていたら、涼太が気にして天国に行けなくなっちゃう」

 そのやさしい声は何かを乗り越えた強さだと、私は思った。

 本当なら息子を失った悲しみに打ちひしがれているであろう心を、奮い起こしてここまで来たのだろう。

「先生、涼太は先生が本当に好きなの。それは幼稚園で笑っている姿だと思う。どうか、また幼稚園で笑っていて欲しい。それを言いたくてここまで来ました」