「でも」

「先生、突然お邪魔して申し訳ありません。お通夜の台帳に書いてくださった住所を頼りに来てしまったんです」

 涼太はふたりの間でぼんやりと立ちすくんでいた。状況が理解できていないのか、母親の顔をじっと見つめている。

 麻紀子は静かにうつむくと、涙をこらえているのか左手を口にあてた。
「村松さん、私・・・。お葬式に行かずに、本当に・・・」

「涼太はね、先生が大好きなの」

「・・・」

「先生」母親はうつむく麻紀子の顔を覗きこむように言った。
「涼太のお友達のお母さんから聞きました。幼稚園をずっと休んでいるんですか?」

 麻紀子は首をゆるゆると横に振ると、
「今は・・・夏休みですので、いつもよりお子さんが少ないので大丈夫なんです」
と消え入りそうな声で言う。