その時、母がふと立ち上がったかと思うと、私の方に歩いてきた。

「ぶつかるっ」
そう声に出した時は、もう母は私をすり抜けて台所へ歩みを進めていた。私は呆然とそれを見送った。

「分かっただろう?生きている人間は霊をすり抜ける。そこに実在していないから当然だ。母親にお前は見えていない。お前はもう死んでいる」
なつかしのアニメみたいなセリフが胸に突き刺さった。

 ふらふらと立ち上がると、私はさっきまで母が座っていたソファに倒れこむように腰を投げた。
「私・・・死んじゃったんだ・・・?」

 男も当然のように隣に座ると、だまって大きくうなずいてみせた。
「みんな最初はそう。受け入れるまでが難しい」

「寒いよ」

「死んでんだから当然体温は低いが、精神状態の悪化で息も白くなる。お前が落ち着けばすぐに元に戻る」

 ぼんやりと男を見る。男の目はブルーで、髪は金髪のように見える。まるで外国人のようだが流暢な日本語をしゃべっている。