ゆっくり正面から近づく。驚かせるのは好みではないから。

「栞」
そっと呼びかけてみるが、思ったよりも声がうわずってしまった。

 栞は、ゆるゆるとこちらを見て、私の顔を確認すると一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに、
「ああ・・・蛍」
とあきらめたような声を出した。

「ごめん・・・さっきは驚かせて」

「うん・・・」

 落ち着いているのか、栞は悲しく笑ったように見えた。相手が逃げないことを確認すると、クロは私の肩を軽く叩くと暗闇に消えた。

「隣、いい?」

「・・・うん」