「良かった・・・。ねえ、お母さ・・・」
そう言いながら母の肩に触れようとして私は言葉を切った。

 差し出した右手が、母の肩をすりぬけたからだ。

 まるで立体映像を触ろうとしたかのように抵抗なくすりぬけた右手を、私は思わず引っこめた。

「何よ・・・何なのよ・・・」

 いつの間にか男は私のそばに立っていた。思ったよりも身長が高く、見上げるような形になる。

「蛍、落ち着けよ。俺はお前の案内人だ」

「だから何なのよ!どうして、どうしてお母さん・・・どうなってるのよ!」

 男は私をまっすぐに見つめてきた。

 不思議とその目は怖くなかった。

 しばらく時間が止まったかのように男は黙った後、口を開いた。


「蛍、よく聞け。お前は死んだんだよ」