私は再び背を向けて歩きながら、蒼ちゃんの顔が見えない状態で、聞いた。
「…マリナさんの会社に行ってたの?」
「…あ、うん。そう」
「なんで?」
「コーヒーが飲みたいって言ってて。うちの。ラメールのコーヒーをさ。
残業続きで忙しいみたいだから、持っていってあげようかなって。結局出張かなにかで席を外してたみたいで会えなかったけど」
――ほら、やっぱり蒼ちゃんはバカだ。
少しずつ勢いを落としてきた雨の音を、聴いていた。
私は、今日はちょっとだけ幸せだったのかもしれない。
…だから、蒼ちゃんを迎えに行きたくなってしまったのかもしれない。
そんなことをぼんやり考えながら。
少し離れた距離のまま、家路を歩いた。