今日1日で、というかこれまで聞いた中で一番柔らかい声。
美奈子や有紗や、あの先輩とも全然違う。
着飾らない声だ。
今までにこんな風に話す人を見たことがなくて、私はうっかり警戒心を解いてしまっていた。
…いかん。
こんなことじゃ。
「それで、あなたは…」
私は深呼吸してから、彼みたいにゆっくりと柔らかく話そうと試みた。
「マリナさんの、何?」
彼の子犬みたいな瞳が揺れ動いた。
戸惑いの表情。
少し、深緑色が混じった瞳。
「もしかして、マリナさんの娘さんですか?」
質問に逆質問されてしまった。
彼も驚いて、無意識のうちに聞いてしまったんだろう。
慌てて口を押さえていた。
「…そうです。篠原由姫乃といいます」