おぼっちゃんだから、きっと、他人の髪の毛を乾かしたことない。
なんだか不馴れな手つきでよくわからない乾かし方をしている。
それなのに、落ち着くから不思議だ。
私は何も喋らずにぼんやりと、頭を委ねていた。
ドライヤーの風の音だけが響く。
しばらくして。
蒼ちゃんが、ポツリと言った。
「ユッキー、今日はよく喋ったね」
…そんなこと、指摘されるとは思わなくて。
私は蒼ちゃんに背を向けたまま、目を見開いた。
やっぱりバレちゃうもの?
そういうことって、不思議と。
蒼ちゃんは小さく笑いながら、私の頭をガシガシした。
優しい、力強さだった。
「俺もね。悲しいこととかあると、不思議とものすごく喋っちゃうんだよね。ペラペラと。あることないこと。だから周りからは、すごく元気に見えるの」
だから、ユッキーもそうなのかなって思った。
それだけを言って、蒼ちゃんはまたドライヤーを当て始めた。