二人っきりであまり会話をしたことがない。
有紗は美奈子と話しているときとは全然違う、小さな声で、そわそわした様子だった。
彼女の体が動くたび、短い黒髪が風にふわっと揺れた。
「…ちょっと、相談したくて」
「相談…?」
「…美奈子の、ことなんだけど」
有紗はそこで、静止した。
怖いぐらいにまっすぐとした目で私を見つめる。
あまり感情のない、ビー玉のような目だった。
「私、なにか、美奈子を怒らせるようなことをしちゃったのかなって」
「…」
「思い当たるとすれば…その、中川先輩の、ことなんだけど…」
言いにくくて、思わず、有紗と同じぐらいの小声になる。
有紗はなんの相槌も示さず、何も言わず、聞いてるのか聞いてないかもわからなかった。
…聞こえているとは、思うけど。
その様子が日本人形のようで、少しだけ怖かった。
有紗の白いブラウスに、漆黒の髪が映える。
同じぐらい漆黒の、なんの感情もない瞳が怖い。
「美奈子は…中川先輩のことが、好きなのかな?
有紗、なにか聞いてる?」
「…」
「あ、そういえば、中川先輩、有紗の携帯番号も聞いてきたみたいだけど。…有紗にはなにか連絡はなかった?」