……へ?
聞き間違いかと思って、「なんて?」と返してしまった。
でも、ぽかんとする俺にお構いなく、ユッキーは立ち上がってソファーに歩み寄った。
俺がさっき使いかけていたドライヤーを手に取って、「ほら」と手招きする。
「…」
何がなんだかわからないまま、俺は仕方なくユッキーに示される通り、ソファーの下に座り込んだ。
ユッキーがソファーに腰かけて、俺の肩にかかったままのタオルを取る。
だいぶ乾いてはいたけれど、まだ水気が残っていた。
「…まだ、渇いてない?」
「うん。だって見てよ、あれ」
ユッキーが指差した先は、さっき俺がいたあたりの床。
確かに小さな水滴がまばらに散らばっていた。
カチッとスイッチが入る。
熱い風を後ろから当てられながら、ゆっくりと髪をとかすように撫でられた。
――もう何年も味わってない、不思議な感覚だった。
すぐ後ろに、ユッキーの足の感覚がある。
「…なんか、本当に犬になった気分」
ユッキーの手が、器用に水気を取っていく。
その感覚に身をゆだねていると、俺は「犬も悪くないなぁ」なんて思った。
「私が、なにか不機嫌なことがあったり悲しいことがあったりするとね、
マリナさんがいつも、その日の夜は髪を乾かしてくれたの」