わたしが住む丘から、街の中心部を抜けて、地元を走るローカル電車の駅を通り過ぎた先。

新興住宅地と合わせて開発された商店街に、わたしが勤めている店はある。


髭面の32歳が店長を務める、輸入雑貨を主に扱う個人経営の小さな店。

この街にやって来てから5年間、わたしはここで働いている。


この街に来て2週間くらい経った頃のことだっただろうか、偶然にここを見つけたのがきっかけだった。

何をするでもなくふらふらと街を歩いていたときに、たまたまオープン直前だったこの店の前を通ったことがそもそもの原因だ。

雑貨には興味がなくて、おまけにそのときはまだ仕事を探そうなんてまともなことも考えていなくて。

ただ本当になんとなく、店の前に貼っていたスタッフ募集の張り紙を眺めていただけだった。


『あ、きみ、採用ね』


眺めていただけなのに、突然横からそんな声が聞こえた。

振り返ればまだ髭が生えていなくてまだ20代だった店長が、にこりと笑って横に立っていた。


思えばあのときから、わたしは自分勝手な他人に流される傾向にあったのかもしれない。

あそこできちんと断れていれば、今になって大きな捨て猫を拾ってしまうこともなかったような気がするけれど、そんなこと考えたところで知りようもないし、今さらどうしようもない。


ただ、そんな成り行きからでも、わたしはずっと続けてここに居る。

いつも気楽で適当で、突き放すことはないけれど故意に近寄り過ぎることもない。

そんな店長だからだろうか、なんとなく、ここは落ち着ける場所だった。