開店前の店内には、外国のロックバンドの音楽がかかっていた。

店長のお気に入りのバンドで、日本ではまだかなりマイナーらしいから、ただでさえ洋楽を聴かないわたしにはさっぱり分からない音楽だった。

けれど、開店後には落ち着いたジャズに切り替わってしまうこの人たちの歌は、毎朝聴いているせいか、もうすっかり耳に馴染んでいる。

名前すら知らないロックバンドだけれど、知らず知らず口ずさむ程度には頭に入ってしまっていた。




「おはようございます」


裏に荷物を置いて店内に入ると、商品を整理していた店長がわたしに気付き振り向いた。


「おう、なんだ、今日は早えな。珍しい」


少し前から生やし始めた髭のせいで、随分悪くなった人相がにいっと笑う。


「はい、ちょっと朝起こしてくれる人がいたもんで」

「お、新しい彼氏か! 紹介しろよバカ!」

「違いますよ。捨て猫拾ったんです。でかいやつ」

「猫かー。可愛いけど俺猫アレルギーなんだよな。可愛いけどな」


この間仕入れたばかりのアンティークオルゴールを磨きながら、店長がぶつくさ呟いた。

なにやら本気で悩み始めているみたいだけれど、恐らくわたしが拾った“猫”は、アレルギーの心配はしなくてもいいだろう。

そもそもわたしが本当に猫を拾ったとして、店長にはあまり関係ない気もする。

面倒だから、そんなことは言わないけれど。