一度だけ、フラれたことがきっかけで、どうしようもないほどに落ち込んでしまったことがある。


高校3年生の冬。

一般の学生は受験戦争大詰めで切羽詰っている時期だったけど、推薦ですでに進学先を決めていたわたしは、あと僅かになった高校生活を大いに楽しんでいる真っ最中だった。


その当時付き合っていたのは、ひとつ年上の高校の先輩だった。

同じ学科の先輩で、1年生のときから仲良くしていたその人と付き合うことになったのは、わたしが2年生のころ、先輩が卒業する少し前のことだ。


先輩は、わたしの彼氏にしては珍しく非常に好青年だった。

顔も性格もいいし、おまけに才能もあって、高校在学中から数々の服飾コンクールで入賞していた先輩は、卒業後も当たり前のように服飾関係の大学に進んだ。


先輩は高校のときよりも授業が忙しくなり、わたしも受験という大変な試練があったけれど、お互い時間を見つけては少しでも会うようにしていた。

今までは、長くて数か月、早くて数日しか持たなかった付き合いが、1年も続いたのはわたしにとって奇跡だった。

もしかしたらこのままこの人と結婚でもするのかな、なんて、高校生の分際で考えたりしたこともあった。



だけどやがて事件は起こる。

わたしが先輩を追いかけて、先輩と同じ大学に入学することが決まった数週間後。

優しくてかっこよくて誠実で、大好きだった先輩の、浮気が発覚した。


相手は、先輩と同じ大学の同級生。

一度だけちらっと顔を見たことがあるけれど、長い髪の綺麗な大人の雰囲気漂う美女だった。


「ごめんね、瑚春」


問い詰めて、白状させて、わたしと美女とどちらを選ぶのか訊いたとき、先輩から返ってきた答えはそれだった。

涙なんて出なかった。

わたしはもうそれ以上は何も訊かなくて、先輩の顔すら見ずに、先輩の隣から離れた。


その日、わたしはたったひとりで、傷心旅行という名の家出をした。