腕の中でもそりと顔を動かすと、左の頬が冬眞の胸に押された。
まるでひとつのものになったみたいに、ぎゅっとくっついて、お互いの体温を分け合う。
うっとうしかった心臓の音が、少しずつ消えていく。
代わりに、わたしの胸からじゃない鼓動が、押し付けられた耳に届く。
「……心臓の音が、聞こえる」
「うん」
「あんた、ユーレイなのに、心臓あるんだ」
瞼を閉じる。
静かな暗闇の中で、聞こえる鼓動だけに、耳を澄ます。
それは、不思議と心を落ち着かせる、甘く懐かしい響き。
とくん、とくんと、ゆっくり命を刻む音。
今を、生きている証。
「無いよ」
冬眞の手が、抱き締めたままわたしの頭を撫でる。
その動作のひとつひとつは、いつかの優しい記憶を、わたしに思い出させる。
「ここに、俺の心臓は無い」
涙はもう失くした。
それでも、いつか流した涙の記憶が、わたしの心をくすぐっていく。
「ここに在るのは、もっと、もっと、大切なもの」
きみがくれた涙、きみがくれた笑顔、きみの呼ぶ声。
きみの、生きている、証の音。