冗談だろう。そう思う自分がいる。
きっと部屋を訪ねてみたらなんてことはない、ぐっすり眠っていただけだ。
そう知りたい自分がいる。
わたしの提案にキッカの顔がくもった。
しばし時間を置いてから「そうだね、起こしにいこうか」と返ってくる。
でも、その声に柔らかさはなかった。
違う。きっと違う。
昨日のわたしがシンクロする。
立ち上がろうとして椅子を蹴ってしまい、金属音が食堂に響く。
わたしは何を感じた? どう思っていた? 何をしようとしていた?
わたしと彼は違う人間だ。
ジーンリッチだとか欠陥品だとかという話ではない。
生まれ育った環境も現状も違うはず。
だから思考が重なるなんてことは。
斜め前を進むキッカ。
彼の足取りがいつもより余裕がなかったことは気づかないふりをした。
ただ置いていかれないようにと、後を追う。
いつもは足を踏み入れない場所。
階段の中ほどまできて、ぶわっ、と鉄の匂いが鼻についた。
鉄、違う。
もっと生臭い。