ふわっと、何かの香りが漂った。

近づいてくる足音。わたしは振り返ることができずただ立ち尽くすのみ。

なんの香りだろう。

どこかで嗅いだことのある、不思議な香り。
 

足音が、わたしの横を通り過ぎる。

その間際にこぼれた静かな声。

「悪かった」
 

それが何を意味するのかがわからない。

わたしは何も彼に謝られるようなことをされていない。

だけど反論する言葉は出てこなかった。
 

ジーンリッチでなくなれば。

彼らがそういう言葉の向こうにあるものはただひとつ。

進んで落伍者へとなることだ。

そう、つまり欠陥品へと。
 

前例がないわけじゃない。

初代にはとくに多かったと聞いている。

キッカはとても稀なひとなのだ。

見た目だけ、そう嘲笑われることに疲れ自らに欠陥品のレッテルを貼っていくジーンリッチ。