「どうしたらいい」
 
静かな寮にこだまする。

「ジーンリッチでなくなれば、いいのか」
 
身体が震えた。

「もう、なにもないんだ」
 

もう一度回れ右をして、寮長室にかけ出すことはできなかった。

今顔をあわせたところでかける言葉など何もでてこない。
 

もう、なにもない。なにも、ない。
 

知っている、それがどういう状態か。

だけど、わたしは。わたしは。


「ほんとうに、なにもないのかな。それは自分が手にしようとしていないだけじゃ?」
 
キッカのことばは胸に痛かった。

頭では理解していても、身体が反応してくれない。

こころが、気力を持てない。
 

両親の顔、フラッシュバック。

よくできた兄。欠陥品のわたし。

それでも何も問題はないんだと、必死に励ます家族。

その期待に応えるべく、勉強に励む過去。

すべては兄と同じ学園に入るため。

一位の兄と二位のわたし。

それでも両親が周りから笑われなければ、憐れんだ瞳を向けられなければそれでいい。

そう思ってつかみとった合格通知。
 

その先に待っていたのは? 自己を偽るための装備と狭い世界。

灰色で、おそろしく匂いのない、窮屈なせかい。
 

そこで見つけた、瑠璃の羊。だけど、その絵は。