謹慎六日目の午前。
キッカに教えてもらった小説はすでに読み終えた。
およそ百年前のサイエンスフィクション。
車が空を走り、アンドロイドが仕事をする。人々はネットワークにいつでもコンタクトできて、好きな情報をすぐに引き出せる。
世界に戦争はないと言われていて、なのに軍隊が存在し、それに入隊することになる子ども。
いったい何のために。
現実は笑えるほど違う。
車は衰退し、空を飛ぶのは飛空挺。地を走るのは路面電車。
アンドロイドはどうにも受けつけなかったらしい、工業ロボットしか存在しない。
代わりにジーンリッチがいる。
ネットワークと脳なんか繋がっていない。
わたしたちは携帯端末を持ち歩き、そこから人工衛星を介してコンタクトを取る。
戦争、軍隊。両方とも存在する。
わたしたちが目を背けがちなだけで。
それでいいのだ、とわたしは思う。
誰かが創作した世界に現実が沿う必要はない。
月や火星に人類が移住することも、仮想世界が構築されてそこにすべてを頼ることもしなくていい。
嘘は嘘、現実は、現実。