「大丈夫、ヤマギワがああいう奴だって、みんな知ってる」
何もできず立ち尽くすわたしの背を、大きな手のひらがぽん、と押す。
柔らかな声が頭上からふりそそぐ。
遠くなる背中。揺れるグレーの髪。
どこからか香る、グリーンノート。
「キッカさん」
顔だけ動かして、微笑む顔を見る。
「結構、嫌味ったらしいんですね」
このひとが寮長で良かった、なんていまさらながらに思う。
「手厳しいねぇ」
だって、彼だけは変わらない。
裏も表もない人間なんていないとは思うけれど、少なくともわたしたちには一面しか見せてくれない。