「ユズリハ、お前、一般人に馬鹿にされてんぞ」
わたしは、気が長いほうじゃない。
ヒノエみたいに飄々と受け流すだけの度量もない。
せめて口が達者であれば良かったのに、とは思う。
手袋がぎゅっと音をたてた。
「あれ、ヤマギワ先生。なにしてるんですか?」
腰に力を入れたと同時に聞こえる、ふわふわした声。
その毒気のなさに瞬時に力が抜ける。
寮の玄関を見れば、いつも以上ににこにこしたキッカが立っていた。
「キッカ、お前こいつらの謹慎」
「もうすぐ夕食の時間だよ。ふたりとも中に入っておいで」
「おいキッカ」
「ヤマギワ先生はお休みだというのに生徒のことを心配なさって、ほんとうに教師の鏡みたいですね。すごいなぁ」
行き場を失った力と手が、どうしようかとさまよって、横にいた人間の腕に触れた。
「行こう」そう言ってとん、と押す。
その腕の持ち主はいったんわたしの顔を見て、苦そうな表情を浮かべてから歩き出した。