馬鹿だ。
ヒノエに向けたことばは、そのまま自分自身にも返ってくる。
原因がわからない苦しみほど、もがくものはない。
空を見上げるともうすぐ夕立がきそうな雲がいた。
風も水分をはらんでいる。雨の匂いが近づいている。
何も変わらぬままあの扉まで帰ってきて、周りに気を配るわけでもなく中へと入る。
無言のまま薄暗い通路にふたりぶんの足音が響く。
そして再び、学園。
夕立なんて存在しない、やや橙色を帯びてきた空、適度に調節された乾いた夏風。
空を見上げれば、やはり飛空挺が泳いでいる。
人工的に並べられた緑を抜け、寮へと戻る。
夏季休暇の期間、どうせ誰もいないと思っていたら、タイミング悪くひとの姿を見つけた。
ヤマギワだ。
「なんだお前ら、何してた」
ちょうど今から寮に来ようとしていた雰囲気。
この男は夏季休暇だと言うのにそんなに用事があるのだろうか。
呆れてため息をつきそうになって我慢する。
横目で確認したナギ・ユズリハは何も言いそうになかった。
ただ冷めた目で、教師という権力を着飾った男を見ていた。