そう長くない帰り道。
行きよりも数段気まずい空気。
通り過ぎた女性の香水の匂いに、思わず鼻を押さえそうになる。
どうして、そう思う自分と、いやそもそもそんなに仲がいいわけじゃないからあまり変わらない、と思う自分がいる。
でもどこかやっぱりその声の刺々しさは気になったし、先程よりも歩くスピードが速くなったことも気にかかる。
「ごめんなさい、ヒノエが何か」
気に障ることでも言ったか。
そう聞こうとして口をつぐんでしまった。
あまりにもきれいな顔が真っ直ぐ前を向いていたから。
あの日、廊下で会ったときと同じ。
ただきれいな顔がそこにある。
きっと、わたしのことなんて目に入っていない。
好奇心に負けて、もしやこれで少し何かが変わるかもという誘惑に負けて、扉をくぐった。
そこまでは悪くなかったのだろう。
だけど、どこか――何かささいなものを越えてしまったのかもしれない。