「え、うん」
 
だってあのとき、夏季休暇の前日に廊下で会ったでしょう。

そのときにヒノエは確かに声をかけて、わたしはその横にいた。

まさかそこを聞かれるとは思わなかった。

たしかに、あまり眼中に入ってないのかなとは思ったけれど。


「そう、悪かった」
 
意味がわからない。

何か気に障ったのだろうか。でもそれならどうして謝るのだ。

こんがらがるわたしを置いて、ナギ・ユズリハは立ちあがる。

「帰る」そうつけ加えて。
 

何がどうしたというのだ。

わからなくとも、そう言われてはわたしも立ち上がるしかない。

とりあえずヒノエにはあとで連絡するからと伝えて端末の電源を落した。

よくわからないけれど、とりあえずそのタイミングの悪さに「馬鹿」とだけ伝えてから。
 

会計を済ませた彼を追う。

「帰ったらお金渡す」と言えば「いい」と断られた。