聞きたくもない声を遠ざけつつ、わたしは階段を下りてゆく。

皮の手袋がきゅっと音をたてた。
 

お似合い、そんなはずあるわけない。
 

開け放たれた玄関から温い風が吹き込んできていた。

もう夏だ。

でもここには蝉の鳴き声も色鮮やかな花もない。

外に出ればきれいに整備されたグラウンドが待っていて、その先には有名建築家がデザインしたという四角い箱――学生寮が並んでいる。
 

まだ眩しい陽ざしに目を細めて仰ぎ見る。

狭い空はそれでも青かった。

灰色の飛空挺がその中を泳いでいる。

いつもと変わらない風景。
 

息を吸う。ああ、そうだ。その体勢のままひとつ理解する。
 
わたしは、あの羊なのだ。瑠璃色の、ほかとは違う羊。