「コチヤ?」
 
どうした、そう訪ねたくなる前に彼がヒノエの苗字を呼ぶ。

端末からも『ユズリハ?』という声が聞こえてきた。


『いつの間に仲良くなったのお前』
 
ヒノエの声がくもる。

でもこれは彼を訝しんでのことではない。

ヒノエはそういう男であるが、それをナギ・ユズリハが理解しているかどうかがわからない。

だってヒノエはたったふたりの絵画専攻でもあんまり会話がないと言っていた。


『てかそこどこ? 寮じゃないでしょ?』
 
余計に声が低くなる。

どうしたものかと思案すれども、何も思い浮かばない。


『何やってるのお前は。見つかったら謹慎延びるでしょうが』
 
このままではヒノエの小言が始まりそうだ。

これはさっさと終わらせて改めて連絡することを約束しよう。


「コチヤと、知り合い?」
 
そう思ってすぐに、意外な声がかかってきた。

端末から顔を上げる。ナギ・ユズリハの顔が無表情に戻っていた。