「昔、とあるコンクールがあった。世界各国から集められる、絵画の」

「キヴィレフト?」
 

今度の問いには、まばたきを繰り返した。

変な名前だから、といっても有名画家だけれど、覚えている。

ヒノエも確か出品したはずだ。十五歳以下の、児童コンクール。


「うちの学校から出品できるのはひとつだけで。彼のは選ばれなかった」
 
なんとなく、彼が喋り出した理由がわかった。


「彼はそれに選ばれなければ、絵の道は諦めると両親に約束していた」
 
ひとはときおり、自分のことをあまりよく知らない誰かに、懺悔したくなる。

吐き出したくて、その先が見つからないときが一番つらい。


「大人が選んだのは、絵が優れているほうじゃない。こっちのほうが失敗しないだろう、こっちのほうが将来的に話題になるだろう。そういう、保証」
 
その気持ちはとてもよくわかる。だからわたしは黙って聞く。


「選ばれた作品は、何も受賞していない。それでも大人たちは言う。ジーンリッチでも駄目だったんだから、しかたがない」