ふっ、と彼がわたしを見る。
わずかに色を携えた瞳。その口が「悪い」と動く。
「待ってるから、見たいものがあれば見てきたらいい」
勝手についてきたのはわたしなのに。
その言葉に驚きつつも、わたしは首を振った。
「下に、喫茶店があったでしょう。そこでお茶でもしよう」
真っ直ぐ帰ることもできる。
でもわたしはそれを選ばなかった。
だってせっかく外に出たのだ。
キッカが作る食事や淹れるお茶になんら不満はない。
それでもたまにはケーキだって食べたくなる。
わたしの提案にナギ・ユズリハは顔を変えることなく「わかった」と答えた。
今度は並んで階段をおりる。
一階に併設されている喫茶店は、思ったより客がいなかった。
すんなり奥の席に通され、それぞれに飲み物を注文する。
加えてわたしはチーズケーキ。