階段をのぼりきってすぐ、特設展のポスターが見えた。

学生限定の絵画コンクール。

ヒノエからそんな話は聞いていないから、参加はしていないのだろう。

ナギ・ユズリハはどうだかわからない。

自分のを探しにきたのか、彼は入り口のパンフレットには目もくれず順路をぐんぐん進んでゆく。

わたしも慌てて後を追う。
 

絵を見ていない、わけではない。

たぶん飾られている絵はチェックしている。

でもそれは作者が誰とかなんの賞を取ったかというレベルではないと思う。

ただ絵を視界に入れているだけ。
 

いったい何を。

わたしは絵を見ている暇がなかった。

大きさの制限があったのか、規則正しく並べられている油彩、水彩、ときには水墨画を横目に彼の背中だけを追う。
 

あっというまに入り口に戻ってきた。

「なかった」そんな声がぽつりと聞こえた。
 

自分の絵が、だろうか。

聞こうとしてやめてしまった。

こういう展覧会はよほどのことがない限り、全作品を飾るのだとヒノエが言っていた。

ならば探していたのは別の誰かの作品なのだろう。