しばらく歩いて辿りついたのは国立美術館だった。
五年前に増改築したそれは比較的まだ新しい。
隣にある現代美術館に比べるとモダンで落ちついたデザインの箱。
なるほど、少し納得する。
彼は芸術学部だ。こういうところが好きでもなんにも不思議はない。
しかし財布を持たずに出てきてしまったことに今更気がつく。
学生証があれば無料で入れるのにそれすら持っていない。
しかたない、ここで待っているか。
そう思ったわたしの目の前に、入場券。
「入りたくないなら、いいけど」
やっぱり彼の言葉に熱はない。
それでもわたしはどこか嬉しくなって「ありがとう」とそのチケットを受け取った。
国立美術館には、何度か来たことがある。
授業とヒノエのコンクールと。
常設展にはさまざまな国の絵画彫像が飾られ、その奥にはもう古くなってしまった美術品を修復しながら展示している。
そして二階に特設展。コンクールやイベント、ときには学生作品が展示されている。
どうやらナギ・ユズリハが見たいのは二階にあるらしい。
彼は常設展に目もくれず、階段へと足を向けた。
わたしは特に見たいものがあったわけではないから、何気なしにその後に続く。